いとしの本棚

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戦闘城塞マスラヲ 聖魔杯とは?ヒキコモリのヒデオは戦えるの?

 

戦闘城塞マスラヲ角川スニーカー文庫より2006年から2009年に刊行された全5巻のライトノベルです。

就職できない、人付き合いが出来ないという理由で引きこもった青年が聖魔杯という怪しい大会に挑んでいく話。

神、妖怪、魔人、精霊、動物、武器、など意思のあるものと人間とがペアを組む、殺人は認めない、というルール以外に何もないバトルロワイヤルに巻き込まれながら成長していく姿を描いています。

 

とりあえず聖魔杯参加

資格が人間と自立した意思を持つ人間以外のペア、優勝賞品は聖魔王の称号という意味不明なもの。

大会の場所は奥多摩の山奥からつながる隔離空間都市で、生活はチケットと呼ばれる空間都市限定の通貨。

生活全体がこの都市で成り立つようにメシ屋、武器屋、服屋から郵便局や図書館、役所まで揃い、それらを作る工業施設もあれば自然区と呼ばれるたくさんの植物がなっているところもありました。

住む場所はアパートや戸建ての家で、参加者は家賃無料という特典付き。

何かを買うにはチケットが要りますが、それを手に入れるには魔物の湧き出る迷宮で魔物を倒して得られるので生活費はそこで賄うようになっています。

内容は何でもありのバトルロワイヤルで、ルールは戦う前に内容をジャッジマンに知らせることと殺人は無しということ。

本当に何でもありで、大会最初のゲームはコイントスでした。

毎日を命がけで戦っている人にとってはコイントスひとつ取ってもいろんな駆け引きがあるようで、普通なら「は?」と言われそうなゲームも立派な試合になります。

ほとんど純粋な切った張ったの戦いですが、勝ち負けが決まれば何でも良いようです。

会社対抗のマシンレースもありましたね。

バトル以外も何でもありで、普通に店を構えたり、チケットを借りて踏み倒そうとして過酷な仕事をさせられたりもあり。

素晴らしい技術を使ってアイドル服を作って感動を生み出したり、アイドル服を作ったことが上司にバレてお仕置きされたりという日常も聖魔杯の大会には込み込みです。

大会は優勝者が決まるまで続くとあり、公共機関もしっかり揃っているところからかなり長い年月をそこで暮らすことが最初から想定されていたのでしょう。

大会が終わっても、ずっと住む人が良そうな活気があります。

 

中村ヒデオ、初の就職

元はといえば目つきが極悪すぎて人付き合いが出来ず、受けた会社はすべて書類落ちというある意味かわいそうな社会不適合者の中村ヒデオ。

性格は真面目で頑張り屋なことは「34社も落ちた」という事実から見て取れると思います。

落ちまくっていることを親に伝えられないのは、安心させたい優しさか失望してほしくない弱さかはビミョウなところですね。

貯金も食料も尽き、無職がばれて実家からの仕送りも絶え、首を吊ろうかと考えたが怖気づいていて中断。

そんな状況でゴミ捨て場で拾ったPCのウイルスに感染されたところから事態は一変しました。

「神になります!」と叫ぶウィル子と名乗る女の子の姿をしたウイルスに連れられ、聖魔杯という聞いたこともないよく分からない大会に参加することになりました。

参加の決心はするものの、引きこもりのヒデオには人並みの体力すらなく、受付があるのは奥多摩のさらに山奥。

寒くて凍えそうになりながらも、電車賃が無くて帰れないという理由でもとりあえずは歩みを止めず、なんとか受付に到着するという前途多難ぶり。

途中、綺麗な夜空を見ながら「今なら…死ねる」などと清々しい気分に浸っていたこともありましたね。

しかしそのおかげで、気弱なはずのヒデオは受付で出会った婦警さんに言い返す程度、精神的に成長していました。

そして聖魔杯開始と同時に優勝候補を倒すという快挙。

さらに不意打ちに来た魔人をあっさり倒すという奇跡。

確かな実力者として周囲に認められることとなったヒデオ。

これを見逃す会社は聖魔杯協賛会社としてやっていけないでしょう。

紆余曲折はあったものの、聖魔杯を牛耳る組織に就職できました。

そしてこの後が波乱万丈でした。

 

スライムに負けて崖っぷち。からの起死回生

大会初日に実力者をふたりも倒して聖魔杯ランキング1位となったヒデオですが、実質相手の自滅であり、真に実力があるのかと言われれば全くありません。

優勝すると(ウィル子が)意気込んで来たはいいものの戦い方の一つも知らず。

さらに栄養失調など聖魔杯とかかわりのないところで緊急入院。

連れていかれた先は凄まじいぼったくり病院で、常軌を逸したの借金を背負うことになりました。

ゆっくり敵を待っている状況ではなくなった彼らは、この都市ならではの稼ぎ方である、迷宮での魔物討伐で稼ぐ決意をしました。

実力が無いことは分かっていましたが、低級な魔物なら武器さえあれば何とかなるし、レアアイテムが出れば一気にもうけも跳ね上がりますからね。

まさかダンジョンに入る前にやられるとは思ってもみなかったようです。

ダンジョンの受付嬢や、他のダンジョン探索者たちもぽかんとしていました。

なにせ大会ランキングは一位。

下っ端相手の勝利ではなく、優勝候補を倒しての一位です。

そのヒデオが、もっともポピュラーで、攻撃力のいっさい無さそうなスライムに吹っ飛ばされて気絶しました。

受付嬢の見ている前で。

探索者たちが噂する足元で。

ただスライムにぶつかっただけで。

ダンジョンに入ろうとするような者たちはどんなに弱くてもスライム程度、逆に跳ね返すでしょうに。

あたりにはどれほど白けた空気が流れていたでしょうね。

想像もつきません。

スライムに倒されたヒデオは再び最狂の医者のいるぼったくり病院に救急搬送。

絶体絶命です。

 

しかしそこからが真骨頂でした。

スライムの体当たりで死ぬ思いをしたことを「わざと」と言って切り抜けました。

どう見てもあっけなくやられての気絶でしたが、普段からそうやって敵の目を欺いてきた参加者たちには”自分たちですら見抜けないほどのテクニック”に見えたようです。

もちろん、聖魔杯参加者すら圧倒するような、アウターと呼ばれる規格外な魔人は嘘だとバレたようですが。

そこはむしろ感心されることになり、さらにはったりの効果を底上げする結果となりました。

ヒデオの武器が極悪な目つきに追加して冷静さと屁理屈が増えた瞬間ですね。

これはヒデオの就職先となった組織との紆余曲折でもあります。

 

ヒロインの暴走婦警と常時暴力少女

戦闘城塞マスラヲに登場するヒロインに萌え萌えしたキャラはいません。

幼稚園児くらいの愛らしい女の子ですら無表情に金属バットを振り回し、人体を”ケチャップ”まみれにします。

参加者で女性警察官の美奈子は真っ直ぐな正義感を持ち、悪をくじくために強さを身に着けた純粋な女性でした。

岡丸という名の、憑依武器である十手を持っていて、目つきの悪すぎるヒデオは見るなり「間違いなく極悪人」と決めつけて成敗しようとした短気警官でもあります。

気弱なヒデオはよく職務質問を受けていて、そのトラウマもあって引きこもりになっていたという経緯もあるので普段はおとなしく従っていたのでしょうが、この時は言い返したようです。

そんな美奈子と対局な鈴蘭。

自ら謎の美少女メイドと名乗り、マシンガンを装備した女の子。

どちらかと言えば可愛いですが、美少女だと認めないと暴れまくる凶悪少女で、ヒデオが入室すらできなかったダンジョンでは単独で最下層まで潜るような実力者です。

魔人ですが人の作りだした武器で大会の上位ランカーが挑むような魔物を倒す実力者で、上位ランカーが倒した魔物のアイテムをかっさらうような極悪少女でもあります。

戦闘城塞マスラヲで可愛い女の子はたくさん出てきますが、ラノベに君臨するような萌え女子は一切出てきません。

作者の林トモアキ先生のの趣味でしょうか。

まとめ

 

極悪目つきのせいで社会に適応できず、ヒキコモリになってしまった主人公ヒデオと、駆除される寸前だったウイルスのウィル子が挑んだ聖魔杯。

命をかけた戦いの場に赴いて、そこで成長していく姿を描いたストーリーですが、戦いに勝利して成長というより、そこで出来た仲間との生活を中心に書いている気がします。

聖魔杯の舞台となった空間都市は人間とそれ以外が共存できる世界を作りたかったんじゃないでしょうか?

冷めきった魔界の姫君エルシアがきゃるきゃるした存在に興味を持つように、作者も空間都市の存在意義に合わせてストーリーを作っている気がします。

もともとヒデオは戦闘力ゼロなので普通のバトルにならないのは当たり前ですよね。

なんですが、そんなヒデオに挑むキャラ、負けるキャラ、関心を持つキャラたちとヒデオとの関わり方が戦闘城塞マスラヲの見どころだと思います。