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旅猫リポート / 感想とおすすめ

旅猫リポート / 有川浩

 

        

旅猫リポート

 

吾輩は猫である、名前はまだない。とおっしゃった猫がいる

という猫自身の感想から始まるストーリー。

 

野良として育った猫が飼い猫として愛情を注がれながらも、事情により一緒に暮らすことが出来なくなり、猫を預かってくれる人を探して昔の友人を訪ねていくおはなしです。

 

ナナと名付けられたこの猫が語り部になっていて、猫目線で語られているところが面白くて、自身のことを類まれなる聡明な猫、と自称しているところが可愛いですね。

 

野良時代は飼い主となったサトルという青年の所有する車のボンネットでの日向ぼっこが大好きだったナナ。

たいていの人間は車の上でナナが昼寝をしていると、しっしっと言って追い払おうとするが、サトルはそんなことはせず、むしろ食べ物を貢いだりする人物でした。

そんな猫好きな人なので夜道で車に引かれ、骨が出てくるほどの大ケガを負った時に思い出し、助けを求めることが出来たんでしょうね。

 

助けを求められたサトルは「呼んでくれてありがとう」と病院に連れて治療を受けさせ、ノラ猫相手に治るまでは家に居るよう説得するほど献身的に世話を焼いてくれました。

そこから数か月で傷は癒え、抜糸も済んで飼われている必要がなくなった時、サトルはようやくナナにうちの猫にならないか?と聞きます。

それでも出ていかれたら素直にあきらめるつもりだったのでしょう。

サトルは素晴らしいほど全力で猫ファーストです。

 

ナナ自身、けがが治れば出ていかなければいけないと思っていたようで、サトルの申し出に不満を言いつつ喜んでいるようでした。

ただオス猫なので、ナナという女の子のような名前をつけられて怒ってはいました。

理由はナナのしっぽが鍵しっぽで、数字の7に見えるというしっかりした理由があったので、サトル本人は気に入っています。

 

5年後、サトルはどうしてもナナとお別れしなければいけない事情が出来、ナナを預かってくれる友人のもとを訪ねていきます。

ナナも、お別れしなければいけない事情は分かっているので何も言わず、よく日向ぼっこをしていた銀色のワゴン車に乗っていっしょに旅に出ました。

 

 

飼い猫ではなく相棒猫

類まれなる聡明さを持つナナはサトルが「どうしても」ダメというものには手を出しませんが、「どうしても」ではないものをきちんと見極め、いっさい我慢しません。

爪とぎをするときは、アパートの壁で研ぐのは「どうしても」ダメなので、「どうしても」ダメではない家具でしか研がないようにしてくれます。

 そんな聡明な猫は狩りもお上手で、自由気ままに散歩に出かけ、スズメやネズミを見かけるとすぐに襲おうとします。

それが分かっているからか、散歩のときはたいてい付いていき、獲物を狙う瞬間、大きな物音を立てたりして邪魔をするサトル。

本能的に狩りをしたがるナナはいつも邪魔をするサトルにとても腹を立てています。

「どうしてもダメというものには手を出さない」とおっしゃる猫様ですが、狩りに対してはいっさい譲る気はない様子。

一方サトルも、どれだけ猫ファーストであっても近所迷惑になる狩りは絶対にさせないという姿勢。

気の置けない様子が仲の良さをうかがわせます。

二人で旅に出かけた時も、サトルがうながすと大人しくゲージに入るナナですが途中からサトルの知らない間にゲージのカギを開けて出てきます。

本当は最初から自由に出入りできたのですが、サトルを立てて出てこなかったんですね。

そして出てきたナナを叱りもせず助手席に座らせておくところにサトルとナナの距離の無さを感じられます。

 

向かう先は友人宅

どうしてもナナに安全に安心して暮らしてほしいサトルは小中高の親しい友人に声を掛け、ナナを預かってもらえないかを聞いてまわります。

ただナナを面倒見てもらうなら、猫好きの同僚でも良かったはずなのに、なぜわざわざ友人を訪ねてまで頼むようなことではないような気がしますが。

しかしそれがナナと暮らせなくなる事情に直結するなら別のお話です。

友人宅は東京で暮らしているサトルと違い、九州にいる友達もいて、預けるために車で出かけています。

数万の高速代と、猫も泊まれるホテル代は間違いなく飛行機代より高かったでしょう。

友人は事情があって預けることができないのですが、どうもナナを預けない理由が出来てほっとしている様子が感じ取れます。

あと、ストーリーがナナ目線で進行するのでよく分かりますが、どんなに猫好きの同僚に預けようとも、ナナが気に入らなければすぐに逃げ出して野良猫に戻るでしょうね。

サトルはナナのこの考えをはっきり分かっていると思います。

 

最後の旅は絆の確認

 サトルと一緒に暮らすことが出来なくなってもナナは、失うものは無いと言い張り、サトルとの別れを「この名前とサトルとの5年間を得ただけ」と言ってのけます。

それは強がりではなく、本心なのでしょう。

サトルが手放した後すぐに預け先から逃げ出し、すぐにえさを貢ぐ人間を見つけ出して生活していましたしね。

もちろん野良に戻りたくて逃げ出したわけではなく、大切な用事があったから逃げ出したわけで、用事が済めばサトルの決めた家に帰っていきますが。

逃げ出したことも、帰ってきたことも、すべてサトルのための行動だったことが、ナナがどれほどサトルのことが好きだったかを表しています。

ナナは少しひねくれた部分があるので言葉には出しませんが、行動から真っ直ぐに気持ちが伝わってくるので感動してしまいます。

 

まとめ

ストーリーはナナ目線なのでサトルの考えは判りませんが、サトルはナナの面倒をお願いしに行ったのではなく、ナナを口実に友達に会いに行ったのではないでしょうか。

もちろん、愛しのナナのお披露目も含めて。

やっぱり大人になると、おいそれとは会えないものなんですね。

それは置いといて。

ナナとお別れしなくてはいけなくなったサトルの最初で最後の旅は、サトルの大切なものをナナに紹介してまわることが目的なのではないでしょうか。

ふたりで過ごした5年間がどんなものだったのかは想像するしかありませんが、幸せな日々だったのでしょうね。